東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)39号 判決
そこで、原告主張の取消事由のうちまず称呼の点について判断する。
(一) 当事者間に争いのない右構成によると、本願商標は、「SHAVEMASTER」及び「シエイブマスター」の文字を、上下二段に、それぞれ同じ大きさ(但し、「シエイブマスター」中「エ」の文字だけは他の文字より小さい。)同じ書体の文字で同じ間隔に一連に左横書きして表わしているが、「SHAVE」が「(ひげなどを)そる」、「MASTER」が「長」、「(酒場などの)男主人」、「修得する」等の意味を有する英語であることはいうまでもないから、それぞれ意味のある「SHAVE」及び「シエイブ」の部分と「MASTER」及び「マスター」の部分とを結合した造語からなる商標ということができる。
(二) ところで、審決は、「SHAVE」及び「シエイブ」の文字が電気機械器具の業界において商品「電気かみそり」を表示するためのものとして普通に使用されているとするが、その認定は誤つているといわざるをえない。すなわち、
なるほど、成立に争いのない甲第七号証、第一三号証、第一四号証及び乙第一号証(いずれもパンフレツト又はリーフレツト)によると、電気かみそり等の広告中には、「スピードシエーブ」、「PHILISHAVE」、「フイリシエーブ・システム」、「PHILIPS LADYSHAVE」、「フイリツプス・レデイシエーブ」等の表示があることが認められるけれども、それらは、いずれも一般商品としての「電気かみそり」自体を指すものではなく、そのうち「スピードシエーブ」が「スピードシエービング」の意味であるほかは、すべて各自社の特定商品の商標として用いられていることが明らかであるから、審決の前記認定を裏付けるものとはいえないし、他に、「SHAVE」及び「シエイブ」の文字が商品「電気かみそり」を表示するための一般的用語として普通に使用されている事実を認めるに足りる証拠はない。
かえつて、前掲甲第七号証、第一三号証、第一四号証、乙第一号証及び成立に争いのない甲第四号証ないし第六号証、第八号証ないし第一二号証、第一五号証ないし第一七号証によると、「電気かみそり」を意味する米語は「SHAVE」ではなく「SHAVER」であつて、わが国の電気機械器具の業界においても、「電気かみそり」を表示する外来語としては、「SHAVER」及び「シエイバー」が普通に使用されていることが認められる。
(三) 前示のとおり、「SHAVE」には「(ひげなどを)そる」の意味があるから、それが「電気かみそり」に関係のある用語であることは否定することができない。しかし、商標を構成するある文字部分が、自他商品識別の機能を有するかどうかについては、その部分のみではなく、他の構成部分の識別力、これとの結合態様等をも含めた相対的見地から決定されるべきものであるから、「SHAVE」及び「シエイブ」の文字が商品「電気かみそり」に関係があるからといつて、直ちにその文字部分に識別力がないと断定することはできない。
他方、本願商標中他の構成部分である「MASTER」及び「マスター」の文字は、単に「長」、「(酒場などの)男主人」、「修得する」等を意味する英語であるばかりでなく、ほとんど日本語化した外来語といつてよいほど、日常ありふれた用語であることは、経験則上明らかなところである。しかも、成立に争いのない甲第二〇号証ないし第八九号証によると、本願商品の指定商品と分類を同じくする第一一類においては、昭和三六年ないし昭和五〇年の間だけでも、「……マスター」及び「……MASTER」の文字からなる商標が七〇件近く公告されている事実が認められ、このことは、その文字が少なくとも同類に属する商品との関係で、ごくありふれた商標構成部分であることを推測させるとともに、もしそれらの商標から「MASTER」及び「マスター」の文字のみを抽出して呼称するならば、自他商品の識別は不可能となりかねないものともいわざるをえない。
そうだとすると、本願商標から、「SHAVE」及び「シエイブ」の文字を無視して、その識別機能を果たす顕著な部分が「MASTER」及び「マスター」の文字にあるとする審決の判断には、到底賛同することができない。
(四) 次に、成立に争いのない甲第九三号ないし第一二三号証、第一二四号証の一ないし五によると、原告は、一九三六年(昭和一一年)一〇月二七日、商標「SHAVEMASTER」についてアメリカ合衆国において商標登録を取得し、以来、これを自社の商品「電気かみそり」に使用しているが、同国の取引市場においては、その一部をも省略することなく、すべて一連に呼称し、使用して来たこと、及びサンビーム・エー・ジー日本支社は、昭和四四年八月以降、原告から「SHAVEMASTER」の商標を付した商品「電気かみそり」を輸入し、これを販売して現在に至つているが、特に、同社の扱つている商品中に「TOASTMASTER」、「MIXMASTER」、「SHEARMASTER」、「CLIPMASTER」の商標を使用するものがあつた関係上、これと区別する意味でも、「SHAVEMASTER」及び「シエイブマスター」について、一連に呼称し、使用しており、取引業界においても、「MASTER」あるいは「マスター」と略称して使用する例はないことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
(五) なお、本願商標の構成によると、「SHAVEMASTER」及び「シエイブマスター」の文字がそれぞれ上段と下段に一連かつ一体に表わされているから、外観上これを二分すべき要素のないことはいうまでもない。そして、その文字全体の称呼は、五ないし六音であつて、それほど長いものでないうえ、その調子も自然であつて、発音しやすいものということができる。
(六) 以上のような事実関係を総合すると、本願商標については、二つの構成部分を分離して観察することが取引上自然であるとすべき事情はなく、これらは一体不可分的に結合しているものと認めるのが相当であるから、本願商標からは、その文字に相応して「シエイブマスター」の称呼のみを生ずるというべきである。
したがつて、本願商標から「マスター」の称呼を生ずるとした審決の判断は誤りであり、この判断を前提とする審決は、その余の取消事由について判断するまでもなく、違法たるを免れない。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容する。
〔編註〕本件に関する商標は左のとおりである。
(一) 本願商標
<省略>
(二) 引用商標
<省略>